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菅よしひで政権の勝負どころ

菅よしひで政権の船出

 菅よしひで政権が順風満帆の船出である。各社の内閣支持率が60~70%の中で、矢継ぎ早の政策を打ち出している。安倍晋三前総理の大きなスローガンを掲げて政策を遂行しようとする手法とは違い、政策を具体的に上げてピンポイントで実行しようとしている。まあ安倍前総理の経済政策と外交方針は踏襲するので、改めて新たな政権の政策的スローガンを掲げる必要がないと思っているのだろうか。この辺は国民やメディアが少し物足りなさを感じてくるところかもしれない。

 

 さて、安倍前総理は通算8年8ケ月にわたって政権を担った。日本における憲政とは、遥かな昔の明治の世、1889年の大日本帝国憲法が発布されて以来のことであるから131年にも及ぶのだが、歴代総理あまたおられるが最長の在任期間であった。日本は1980年代後半に技術大国、経済大国と言われ世を謳歌をしていたわけだが、1990年代初頭から暗黒の20年と言われる時期に突入し、株価の低迷や円高による貿易の不振等に端を発し国民所得の向上が見られず、デフレスパイラルに覆われ国民は疲弊を強いられた。特に政権交代が行われ、民主党や非自民連立政権が2度にわたって政権を担った時期の経済的落ち込みは顕著であった。これについては異論のある方もいらっしゃるだろうが、歴史的に見て事実である。

   2009年に民主党の鳩山政権が誕生してから3年数か月の間、株価は一万円を割り込み低迷を続けた。安倍総理が再び政権に就くとようやく上昇に転ずるようになる。また、円については民主党政権時代の2009年から2012年にかけて、おおむね70円台後半から90円台後半で推移している。こちらについても、安倍総理が政権に就くと115円前後で安定的な動きを見せる。バブル期のような劇的な上昇まではみることは出来ないが、一定の上昇の中で推移することになる。ただ、安倍総理が目指したデフレからの完全な脱却までは果たせなかったと私は思っている。総じて、安倍総理の2012年末からの7年8ケ月の評価として、低迷を続けた経済をある程度復興させたと言うことで、中興の祖と言えるのではないかと考える。日本のかじ取りをする総理として、そして自民党にとっても同様に言えるのではないだろうか。

   さて、菅総理はそれら遺産を引き継ぐ形で政策を踏襲するのであるが、それらの進め方によって歴史的ポジションが見えてくる。ただその前に、安倍前総理は中興の祖であると述べたが、中興の祖の後を引き継いだ者の行方について書いてみたい。一つの例として中国の長い歴史の中から見てみたい。

4千年と言われる中国の歴代の国々の中にあっても中興の祖と評価をされる帝はそうはいない。代表的な3名を上げてみる。前漢の宣帝、唐の徳宗、明の孝帝である。

    まず、前漢の宣帝であるが9代目の帝であって17才で就任し紀元前74~48年の間在位していた。その後をうけたのが息子の元帝である。元帝は、宣帝の側近として重用された宦官の弘添、石顕と対立し失脚する。いわば、宣帝の身内に弓を引かれたのである。唐の徳宗は12代目の帝であるが、37才で就任し779年~805年の間在位していた。その後は息子の順宗が就任したが、脳疾患を患い宦官の具文珍らに退位を迫られ失脚。さらに後継を息子の憲帝に譲ったが、宦官によって暗殺された。明の孝宗は10代目の帝であるが、17才で就任し1487年~1505年の間在位していた。その後は息子の武宗が就任したが放蕩な生活を繰り返し孝宗が立て直した明を衰退させ滅亡の要因を作った。

   まあ、いずれにせよ中興の祖と言われる名君の後をうけた帝たちは良い境遇には身を置けなかったらしい。どうにも、先代と比べられ評価を得るのは難しかったようだ。ようするに中興の祖と言われるような組織の偉大なトップのあとを継ぐリーダーは常に先代と比較され、何事につけ苦労が多いようである。さらに一緒に先代を盛り立てていた同志とのいさかいが生じることも多い。つまり前漢の宣帝のあとを受けた元帝や唐の順帝や憲帝などがそれにあたるであろう。また、明の武宗のように下降線をたどり滅亡のきっかけとなってしまうリーダーも多い。

衆議院選挙の結果によって政権の行方が大きく変わる

さて、菅総理は安倍晋三という中興の祖のあとを受けてどのようなリーダーとなっていくのか。菅総理の今後に多大な影響を及ぼすと考えられるのは衆議院選挙である。衆議院選挙の結果が今後の菅政権の全てを左右する。

 まず選挙の時期、つまりいつ衆議院を解散するのか。任期は2021年の10月で切れる。任期満了による衆議院選挙は過去1回しかない。東京都議会議員選挙、東京オリンピックのことを考えれば、やはり2020年の10月から2021年の1月の間に衆議院の解散は行われるだろう。新型コロナウイルスの状況ということはあるが、通常国会が本格的に始まってしまうと予算審議に入ることになり、それを横に置いて解散するわけにはいくまい。予算は3月末には上がるだろうが東京都議会議員選挙が目前となり公明党は解散させないだろう。オリンピックの準備もあるし、やはり早期の解散になる。

   私は、10月20日過ぎに開催予定の臨時国会か、2021年1月20日過ぎに開催されるであろう通常国会の冒頭解散しかないと思っている。とにかく、衆議院選挙は目前に迫っている。菅総理はやるときはやる、という性格である。

 菅総理にとって衆議院選挙の結果によって政権の行方が大きく変わる。次に、その点について述べていく。

まず安倍前総理からの遺産ともいうべき与党の現衆議院の勢力数を見てみる。自民が284議席、公明が29議席、与党は313議席である。これは憲法改正に必要な衆議院の3分の2の310議席を確保している。菅政権の勝敗の基準は、やはりこの310議席ということになるだろう。与党で310議席を超えれば大勝ということになる。自民281議席、公明29議席ということか。そして負けではない勝ち、つまり普通の勝ちというのが、与党で290議席。自民261議席、公明29議席ということになる。敗北というと与党で260議席以下。自民231議席、公明29議席以下ということになるのではないか。

  菅政権の今後を考えてみる時、1年後の2021年9月に実施される自民党の総裁選挙がどのような構図の中で行われるのか、ということが大きな意味を持つことになる。具体的に述べていこうと思う。まず、次の衆議院選挙で大勝である与党310議席以上を獲得した場合は、菅内閣は本格政権を目指す。総裁選挙は菅総理大臣の独走状態で再選される。こうなれば、政策遂行については菅総理は自信を持って邁進できる。次に与党290議席程度の普通の勝利の場合、総裁選挙に向けて風雲急の動きが始まる。次に向けて岸田文雄元外相をはじめ石破茂元幹事長が動きを活発化。また新たに河野太郎行革担当相や野田聖子幹事長代行が出馬を目指し運動をスタート。また、細田派、竹下派、ひょっとしたら二階派、石原派までもが自派からの出馬を模索し始めるかもしれない。各候補が乱立し、百家争鳴の事態を招くかもしれない。そして、与党260議席以下の場合。こうなると、本人が無派閥だけに党内の求心力が吹き飛び、総裁選挙を待つまでもなく統制が取れず早期退陣もあり得よう。

 

 このように、菅政権にとって次の衆議院選挙が本当に大切なものとなる。それとともに国民にとっても今後の日本の行方をかける大切な選挙になるのだ。再び総理大臣が毎年変わってしまう不安定な政治がよみがえってしまうのか、それとも為政者が自信を持って国民のための政策を推進できる安定した政治が実現できるのか。私たちは真剣に考えていかねばならない。今、本当に大事な時期に来ている。私は、そう思えてならない。