覇権を守る戦略、というのは当たり前だがアメリカの戦略のことである。
覇権を奪う戦略、というのはこれまた当たり前だが中国の戦略のことである。
ある研究機関の分析によれば、アメリカが世界の中でGDP総額がトップになって既に148年になるとのことである。分析方法も詳細ではないため、確かな数字なのかどうかは何とも言えないが、ただアメリカはイギリスから覇権を譲り受けて少なくとも1世紀間は覇権国として世界の中心に居座り続けている。
かたや中国は、19世紀に吹き荒れた帝国主義戦争の中で苦難の道に墜ちていく。1842年にアヘン戦争に敗北してイギリスに香港を割譲、不平等条約を締結。同じような不平等条約をアメリカやフランス、ドイツ、日本とも締結することになり、半植民地化の道をたどる。習近平は、それら帝国主義戦争による列強の仕打ちに対して、国辱として恨み骨髄なのであろう。中国の今の政策が、そこからスタートしているのは明白だ。アメリカの1世紀にわたる覇権に対して、中国の約2世紀ぶりの復権、という構図なのだ。
アメリカについてざっと述べると、1861年から4年の間、南北戦争という内戦を経験し合衆国を統一、19世紀後半から経済大国として実力を蓄積し、第1次世界大戦では自国が戦場にもならず勝利をおさめ、1920年代後半の大恐慌ではニューディール政策をはじめとした経済対策で乗り切り、1940年代の第2次世界大戦も勝利、覇権国として実績を積み上げていった。さらに最近の経済について特徴的なことは、コンピューター技術や1Gから5Gに至る通信技術において他の追随を許さぬ技術開発が行われていることである。今後の経済発展の基本となるコンピューターや通信の技術については、ソフト、ハードとも世界の中で独走状態である。
中国についてざっと述べる。中国は長い歴史の中で領土の広さについては時代によって大きく変わる。従って、ここでは18世紀後半の清・乾隆帝の時代から述べる事とする。乾隆帝は遠征を行って領土を広げた。台湾、モンゴル、チベット、新疆、朝鮮、ベトナム、タイ、ビルマを直轄領や藩部と称した中国行政区、または属国として支配下に治めていく。それは実に広大な領土であった。しかし、19世紀に入りイギリスをはじめとした列強諸国との攻防により半植民地化されていく。それからの時代は苦難の連続であったろう。各国の干渉を受け不平等条約を結び、1912年には清国が滅亡。中華民国として第1次世界大戦に参加するが、日本をはじめ各国が中国に軍を進める。先に述べた台湾をはじめとした領土は次々に列強が事実上支配するようになる。この状態は第2次世界大戦が終了するまで続くことになるのである。先にも述べたが、習近平の脳裏には常に広大な領土を有した、いにしえの中国の姿があるにちがいない。
さて、中国は第2次世界大戦後に蒋介石の国民党と毛沢東の共産党の内戦により、共産党が勝利を治める。1949年に中華人民共和国を建国し、内政の問題を抱えながらも大国を標榜し国際社会の中で成長を続けていく。ただ、そのスピードは決して速いものではなかった。鄧小平、江沢民、胡錦涛など評価されるリーダーが登場したが、大きな飛躍を遂げるのが習近平の時代に入ってからである。習近平は2012年11月に第5代最高指導者としてトップに立ち次々と改革を断行していく。特に、汚職が横行する社会の規範厳守を行い、国民の支持のもと経済の発展に全力を傾注していった。紙面の都合上詳しくは避けるが、習近平という人物は強い歴史観を持ち国際社会を大局的に理解する傑物であろう。ただ、広大な領土を誇った2世紀前の中国の復活という時代錯誤の概念に捕らわれないことを願うのみだ。その概念に支配され過ぎると、悲劇が生まれるであろう。
アメリカと中国の歴史を簡単に見てきた。それら両国の歴史が、今後の覇権を争う原因となっているのである。アメリカは先ほども述べたが1世紀にもわたり手にしてきた覇権を今後ずっと死守しようとするのは明白だ。そのために世界の警察として長い間いろいろな問題、紛争に進んで関係して何らかの結果を出してきた。冷戦と言われたソ連との覇権争いも勝利を治めた。アメリカの覇権を守るための戦略は明確だ。覇権を奪おうとする国を蹴落とすだけなのだ。そのためには方法を選ばない。大統領がトランプであれバイデンであれ、党が共和党であれ民主党であれ、その点は変わらない。アメリカの取る戦略は、覇権を狙ってくる国は手段を選ばず何が何でも蹴落とす、なのだ。中国は2020年現在、南シナ海や東シナ海をどうにかしようと虎視眈々と狙っている。また、香港での一国二制度を無視した強権的抑圧行使、台湾問題。そして、インドとの境界線をめぐる紛争では両国で数十名の死者を出した。チベット問題は1951年に、もともと中国だったという強引な理屈と軍事力による脅しで中国に組み込んでしまった。現在も人権の抑圧やダライ・ラマを中心とする仏教文化の否定、核実験による環境破壊等、問題は山積している。その他モンゴルやベトナムなど多数の問題を抱えている。
中国の戦略は明確である。かつての広大な領土を再び中国のものとすることなのだ。そういえば一帯一路についても、かつての絹の道の再現が頭にあることは明白である。このように、中国の拡大主義というものは一貫していて、それらを突き詰めていけば覇権を握るということに行きつく。さらに、中国は領土だけではなく経済力の拡大も図る。むしろこちらの方が顕著で、事あるごとに覇権国のアメリカとぶつかる。中国のGDPは2030年にはアメリカを抜いて1位になるだろう、と言われている。アメリカは1世紀半にわたって1位に座り続けてきたが、そう易々と首位は明け渡さないだろう。かつて、ドイツや日本やソ連に覇権の交代を迫られてきたが、すべてにおいて、跳ねのけてきた。アメリカには覇権を守るための戦略が肌にしみついているだろう。これからの何十年か、その戦略は中国に対して事あるごとに牙を向いて行くだろう。
中国は、コンピューターについて後発であった。アメリカはその点において中国を大きく引き離していた。しかしながら、中国は民間に多額の資金を投入してコンピューターのレベルアップを図った。アメリカの技術を盗めるだけ盗んで開発を進めたと言われている。それは今、米中の経済戦争の中で次第に明らかになってきている。アメリカは技術の漏洩を禁じ、それを盗もうとする中国を糾弾する。そして中国に打撃を与えることを目的に経済制裁を課す。中国も対抗措置としてアメリカに対して経済制裁で反撃する。これらはすべて覇権を争う一端なのである。そして、その争いはますます激しさを増していくだろう。その過程の中で、アメリカと中国の関係する国や地域でいさかい、紛争が起こってくるだろう。世界はきな臭さを増していく。そして、最後は覇権をかけた当事者同士の戦いが始まるだろう。しかし、そうしてはならない。世界の終わりがやってくるかもしれないからだ。
世界の中で、みんなが知恵をもって対応していくことが大切である。場合によっては覇権を二つに分けることもあるかもしれない。大切な事は、世界中の人々がいつの世も人類と地球を同じ価値観で捉え、そして一緒に
考え、共に成長していくことである。